小生お気に入りの噺家は何人もいるが、現在の落語協会の協会長でもある柳亭市馬はそのうちの指折りの一人だ。
また三鷹市の星のホールでの落語会は、落語通の事務局長さんの番組構成が小生のツボにもくるので、時々出かけている。
その星のホールでの市馬の会となれば・・・で先日出掛けてきた。会場に着くといつものように満員御礼と。
確かに会員先行の予約日にもなかなか電話がつながらず、今回はチケットを取るのに苦労したが・・・ますます人気が高まっている様子。
さて開演、開口一番は市朗だった。28歳で入門したというから、すでに30歳を超えている。前座としては落ち着いているが・・・
始めたのは「出来心」、年齢なりの落ち着きはあるが、逆にいえば前座らしく、もうちょい元気にテンポよくやってほしい気もする。
続いて市楽が登場、来春真打に昇進すると嬉しそうに言っていたが、始めたのは「紀州」だった。これが・・・残念ながら、これまで聞いたいろんな噺家のそれと比べても、最悪の紀州だった。
ディスりたくはないのだが、彼が何を目指しているのかがまったく見えなかった。師匠である市馬の芸風と似ても似つかぬ方向性はどうよって・・・
もちろん、さん喬と喬太郎のように一見全然違うように見えていても、弟子が師匠をリスペクトしていて、その延長に自分の個性を乗せているというのはいいことだ。
だが、市楽は師匠の基礎がないまま、まったく違う方向に行こうとしているようにしか見えない・・・もったいないと感じるなあ。
さて、軽く疲労感が出たところで、市馬の登場。一席目は「道具屋」だった。なんと・・・バリバリの前座噺だ(驚)。
これが奇をてらった演出など皆無であるのも関わらず、なんて面白い・・・こんなに面白い道具屋はめったに聞けないぞ。市朗にはとても勉強になったのでは・・・と。
そして続けて、もう一席と「阿武松」に入る。一転して人情噺の名作だ。相撲好きの市馬だけに、細かな演出や描写も本格的、これまた奇をてらった演出などなくても、きっちり感動させてくれる。さすが市馬だ。
ここで気が付いた・・・「道具屋」は市朗だけでなく、基本が大事だぞという市楽へのメッセージではと。そう、そして「阿武松」はしっかり辛抱して稽古しろよという、激励のメッセージなのだと。
ここで中入りが入り、再開となる。
最初は基本の出囃子「吾妻八景」で出た市馬だが、トリに際してはトリ専用の「中の舞」で上がる市馬。
水色のなんとも清々しい高座着が素敵だ。となると・・・何をやるんだ・・・と思っていたら、季節感先取りで「青菜」を始めた。
昔と今では噺家のよくやるネタも変わりつつあるが、「青菜」は昔より多く聞くようになってきた印象がある。
それだけいろんな噺家がよく掛けているし、当然噺家ごとの演出も様々である。某笑点レギュラーのようにしつこいばかりの演出もあれば、あっさりやる人も・・・
市馬のそれは、やはり保守本流。基本となるお手本のような演出で、展開はわかっちゃいるが、こんなに面白いのはなぜでしょうと・・・
かくして大満足で大団円。今回は前座噺、人情噺、滑稽噺と三席三様でやってくれた市馬に拍手である。
さすがに当代一流の一人・・・ではあるが、隋分と痩せているのがちょいと気になった。やはり協会長のストレスなのかなあ・・・と。